投資界の広辞苑、のような存在 投資苑 − 心理・戦略・資金管理

著者:アレキサンダー エルダー
出版社:パンローリング; 第1版 (2000/08)

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こんな人、こんなシーンにおすすめ

  • 長年、株式投資をやっているが、一時的に儲かっても最終的には損して終わっている、という人
  • 長期的な資産形成を目指したい投資家
  • 株式投資の知識を不動産投資に活かしたいという人

深く、濃い、投資の本質

旧ソ連からアメリカに亡命した精神科医が、トレーディング(株の売買)で生計を立てるための心構えやテクニックについて語っている本です。

原著名は「Trading for a living 」、つまり「トレーディングで生計を立てる方法」ですが、なぜか日本語版は「投資苑」というタイトルになっています。
おそらく、「広辞苑」のように分厚く、内容が濃い本だからそういうタイトルにしたのでしょう。

本のタイトルからするとデイトレードやスイングトレードのような、短期・中期投資を行う株式投資家を対象とした本のように感じられますが、実際には
・長期投資を行う株式投資家
・長期投資を行う不動産投資家
にも多くの教えを与えてくれる、投資の心理について語っている本、投資家にとっての古典的名著だと思います。

ピラニアに食らわれ続けることを前提とした投資の規律

この本で特筆すべき点は、投資家がなぜ利益を出せず、または出せたとしても最終的には損して終わってしまうのか?の理由を、
・規律、ルールがない
・あったとしても守れない
・精神的に(心理的に)舞い上がってしまい、ルールを無視して売買してしまう
というような精神面に見出している点にあると思います。

多くの投資家は、
・株式投資なら、上がる銘柄を購入すれば儲かる
・不動産投資なら、良い物件を購入すれば儲かる
と考えてしまいがちですが、実際にはそれを購入する投資家が自己コントロールできない人間であれば損して終わるでしょうし、自己コントロールできる人間であれば利益を出し続けることができます。
つまり、自分がどう考えて、どう振る舞うかが重要だということが分かります。

また、この本は取引における「手数料、税金、スリッページ」がもたらす害悪についても強調しています。

例えば、
100万円を元手に、300万円の信用取引をしたと仮定しましょう。往復で3,000円の手数料を払ったとします。
「たったの」0.3%かもしれませんが、月に10回売り買いすれば3%。12ヶ月、つまり1年間取引すれば、36%になります。

100万円の元手に対して36%の手数料を払い、なおもそれを上回る利益を毎年上げ続けようとするのは、さながら田舎の少女がブロードウェイのスターを目指して家出をするようなものだ、

プロのファンドマネージャーでさえ、毎年継続して30%のパフォーマンスをあげられると約束されるならば、喜んで我が子を差し出すだろう。と説きます。(宝くじに当たるくらい実現性が低く、不可能に近いということ。)

売買手数料だけでも上記の結果ですから、それ以外の税金(譲渡益課税)や、スリッページ(成り行き注文を出したときの、価格のずれ。例えば株価1236円で成り行き買い注文を出したのに、1240円で売買が成立した場合、+4円多めに払っていることになります。これがスリッページです。)といったものを加味すれば、もっと多くのロスがあることになります。

つまり売買を頻繁にすればするほど、儲け続けられる確率は飛躍的に下がることを肝に命じなければなりません。

このことを指して、投資苑では「株式相場とは、ピラニアがうようよしている川を泳ぐようなものだ」
→売買する度にピラニアに食いつかれ、流血せずにはいられない投資なのだ。岸辺でじっとして、売買しない方が、流血を避けることができる。

と解説しています。

不動産投資においても同様で、不動産はただでさえ手数料や税金が高い投資です。
仲介手数料は往復で6%を超えますし、税金その他を含めると軽く20%程度のコストはかかるでしょう。

以上を考慮すると、購入には慎重に慎重を重ねた上で決断し、そして一度購入した物件は簡単には売らない、一生持ち続けるくらいの気概をもって取り組まなければならない、ということが分かります。

一時的な気の迷いで買ったり売ったりするのではなく、しっかりとした規律をもって買い、じっくり保有してから売却すること。
投資の真理は、あらゆる投資に共通することがよく分かる本です。

書籍の評者

束田 光陽
ファイナンシャルアカデミー認定講師 ・不動産投資家

サラリーマン生活に不安を感じ26歳で不動産投資を開始。現在までに通算30件の物件を取得。総資産5億円、年間家賃収入は4000万円。自身の経験に加え1万人以上に教えた経験をもとに展開する授業は抜群の説得力。受講生評価も常に高得点をマーク。

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束田 光陽